科学研究費補助金・新学術領域研究(新ハドロン)・公募研究

通常原子核密度下におけるφパズル解明に向けた、エアロゲル検出器の開発

研究代表者:佐久間 史典(理化学研究所)

課題番号:22105516(平成22年度〜23年度)

研究の目的・概要

KEK-PS E325実験の後継実験であるJ-PARC E16実験は、φ->e+e-のさらなる高精度測定を目指した実験である。 本研究はE16実験にハドロン検出器群を新たに構築して、φ->e+e-/K+K-両測定から通常原子核密度下での『φパズル』を解決することを最終目的として研究を進める。 φ->K+K-測定で重要なポイントとなるのは、「オンラインでのK中間子同定」と「K+K-トリガー」の2点である。 本研究ではこのうちの1点目であるK中間子同定をするためのエアロゲル検出器のR&Dを進め、実機サイズのプロトタイプを作成する事を目的とする。

E16検出器とハドロン検出器 φ->e+e-(塗潰)/K+K-(斜線)に対する検出器のアクセプタンス

平成22年度:研究の進捗と成果

H22年度はエアロゲル・チェレンコフ検出器のデザインを中心に進め、また、エアロゲルの基礎的なスタディーとして何種類かのエアロゲルの性能評価を行った。
1.デザイン
鏡による2回反射型のチェレンコフ検出器を採用することでコンパクトな形状を実現した。 チェレンコフ光の読み出しに3インチ・ファインメッシュPMTを用いることで磁場中の動作を可能とし、PMT付近の集光はウィンストン・コーンを使用して効率的な集光を行う。 鏡の形状の最適化は光学計算により行った。 これらの設計をもとにR&D機を完成させ、宇宙線による性能評価を行った結果ほぼ予想通りの光量が得られた。
2.エアロゲル
0.5-1.9 GeV/cのK中間子をオンラインで同定するために、index=1.034のエアロゲルを用いる。 用いるエアロゲルはKEK-PS E325実験で用いた再利用品、パナソニック電工製のエアロゲル、千葉大において開発が進められている透明度の高いエアロゲル、の3つを候補として各々の基本性能を確認した。 その結果、E325で用いた古いエアロゲルを用いても予想通りの光量を得られることが分かったが、千葉大製エアロゲルを用いると得られる光量が1.5倍程度となり検出器の性能が大幅に向上する事が分かった。

平成23年度:研究の進捗と成果

H23年度は昨年度作成したR&D機の詳細な性能評価を進めた後、これらの結果を基に実機サイズのプロトタイプ検出器を完成させた。
1.R&D機の性能評価
昨年度作成した鏡による2回反射型のエアロゲル・チェレンコフ検出器(40x10x10cm3のエアロゲルを放射体として用いた、1モジュール分60x60x10cm3の大きさの検出器)の詳細な性能評価を行うため、SPring-8/LEPSビームラインにおいてチェレンコフ光の光量・検出効率の入射位置依存性等の測定を行った。 その結果、97%以上の検出効率(1光電子以上要求時)を達成していることを確認した。
2.プロトタイプ検出器
R&D機での結果を元に、実機サイズのプロトタイプ検出器を作成した。 プロトタイプ検出器は70x10x10cm3のエアロゲルを放射体として用いた、1モジュール分100x100x12cm3の大きさの検出器である。
以上、J-PARC E16実験アップグレードとしてのエアロゲル・チェレンコフ検出器の基本デザインを完成させた。

論文・紀要・会議録:
学会・国際会議講演:
  • "J-PARC E16実験ハドロン検出器のためのエアロゲル・チェレンコフ検出器の開発”,
    中村祐喜, 日本物理学会 第67回年会, 2012.3, 関西学院大学
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その他:
  • "Development of an Aerogel Cherenkov Counter for the J-PARC E16 Upgrade",
    佐久間史典, 新学術領域「多彩なフレーバーで探る新しいハドロン存在形態の包括的研究」 2010年度領域研究会, 2011.2/28-3/1, 理研
    [pdf]